【名盤】Too Fast for Love(モトリー・クルー)

目次

MTVの幕開けを告げる性的退廃と危険の美学

当サイトの評価
[★★☆☆]

  • 1stアルバム
  • リリース_1981年
  • 作品名_Too Fast for Love(邦題:華麗なる激情)

Spotify

Apple Music

1981年、米国でMTV(Music Televison)が開局したその年に、ロサンゼルスのストリップ・シーンから登場したモトリー・クルーは、1stアルバムToo Fast for loveをリリースしました。

化粧とレザー、鋲と血糊。快楽と危うさが混ざり合った彼らの姿は、音楽そのもの以上に“危険”というイメージを世間に強く刻みつけました。

モトリー・クルーがデビューした1981年は、パンクロックの初期衝動が過ぎ去り、ポストパンクやニューウェイヴが台頭していた時期です。その反動として、英国ではNWOBHMのムーブメントが起こっていました。

また、MTV開局による「ビジュアル面」への傾倒など、ロック界が大きく変動した時代。

本作Too Fast for Loveは、その時代背景を強く反映した作品です。

シングルカットされた『Live Wire』は、性的魅力を前面に出したビジュアルや血糊を使った映像演出で、音以上の視覚的衝撃を与えました。MTV時代を象徴するド派手な姿は、モトリーを「危険な存在」として鮮烈に印象づけました。

音楽と同等、またはそれ以上にビジュアルが意味を持ち始めた時代を象徴する1曲です。

サウンド面は荒削りながらスピード感に満ち、NWOBHMの衝動をLA的な享楽へと変換しています。

歌詞においても、快楽や欲望、刹那的な衝動といったテーマが中心で、神話や社会批評を扱う英国メタルとは明確に一線を画しています。ストリップ・シーンに根差した享楽の文化をそのまま作品に持ち込み、現実の退廃と危険をロックの表現へと変えたのです。

Too Fast for Loveは、映像・音・言葉のすべてで「危険」と「享楽」を体現した原点的作品です。

Too Fast for Loveのエピソード

1981年、モトリー・クルーはロサンゼルスの小さなスタジオでデビュー作Too Fast for Loveのレコーディングを行いました。

初期プレスは自らが設立したインディー・レーベル、Leathur Recordsからリリースされ、プロデューサーにはバンドと親交の深かったマイケル・ワグナーが名を連ねています。大手の支援を受けない自主制作という形態は、当時のストリップ・シーンのDIY精神を色濃く反映したものでした。

1982年にElektra Recordsと契約が成立すると、アルバムは一部リミックスされて再発され、サウンド面でもより明確にメジャー市場を意識した仕上がりとなります。

ジャケットにはリーダーであるニッキー・シックスが愛用していたレザー姿の写真が採用され、退廃的かつ挑発的なイメージを強調しました。

酷似したアルバムジャケット

ジャケットはローリング・ストーンズの『Sticky Fingers』を思わせる股間部のクローズアップです。モトリーの性的挑発と危険さを象徴したデザインに仕上がっています。

1980年代初頭は、アメリカではパンクが沈静化し、NWOBHMの影響を受けた速く荒削りなサウンドが注目される一方で、MTVの開局によってビジュアル性がロックの武器として重視され始めた時代でした。

Too Fast for Loveはまさにその二つの潮流を重ね合わせた作品であり、視覚的にも聴覚的にも「危険」を売りにする新しいロック像を提示しました。

アルバムは最初こそローカルな人気にとどまりましたが、Elektraからの再発によって全米規模へと浸透し、のちに100万枚を超えるセールスを記録します。

Too Fast for Loveの収録曲

  1. Live Wire
  2. Come On and Dance
  3. Public Enemy #1
  4. Merry-Go-Round
  5. Take Me to the Top
  6. Piece of Your Action
  7. Starry Eyes
  8. Too Fast for Love
  9. On with the Show
オリジナル版

1981年に自主制作されたLeathur Records盤は初回900枚しかプレスされておらず、今では極めて入手が困難です。また、1982年の再発盤は曲順が異なるほか、『Stick to Your Guns』が外され、『On With The Show』が収録されています。

PickUp:Live Wire

荒々しいリフと疾走するリズムで幕を開ける『Live Wire』。

血糊を使ったプロモーション映像とともに解禁されたこの曲は、音楽以上に視覚的衝撃を刻みつけ、MTV時代を象徴する存在となりました。

歌詞の内容は、制御不能の電流のように突き抜ける欲望と衝動の比喩であり、純粋な愛ではなく危険な関係性を描き出しています。激情と破壊衝動を混ぜ合わせたその世界観は、本作のテーマである“享楽と危険”を最も直接的に体現するものです。

モトリー・クルーの名を世に知らしめた代表曲であり、後のLAメタルを方向づけた重要な楽曲です。

“Cause I’m hot, young, running free A little bit better than I used to be”

(だって俺は熱く、若く、走り続けてる。昔の俺よりちょっとはマシになってるんだ)

出典:Motley Crue『Too Fast for Love』(1982, Elektra Records)

PickUp:On With the Show

アルバムのラストを飾る『On With the Show』は、ストリップ文化に根ざした享楽的な世界から一歩引き、より物語的な広がりを持たせた楽曲です。

歌詞に登場するのは“Frankie”という人物で、彼の死と再生を寓話的に描きながら、バンド自身の姿を重ね合わせています。享楽と退廃を歌うだけでなく、自らを劇的に神話化する試みです。

荒削りな演奏でありながら、叙情的なフレーズと演劇的な構成が融合し、単なる危険の象徴にとどまらない表現力を証明しました。

Too Fast for Loveの中でも異彩な立ち位置であり、バラード的な語り口は万人受けする魅力も秘めています。

わたしがモトリー・クルーを聴き始めた頃、最も再生していた楽曲。

“Frankie died just the other night, Some say it was suicide”

“But we know, How the story goes”

(フランキーは昨夜死んだ。自殺だと言う者もいる)
(だが俺たちは知っている。物語の結末がどうなるかを)

出典:Motley Crue『Too Fast for Love』(1982, Elektra Records)

おすすめの聴き方

Too Fast for Loveはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。

本作は、モトリー・クルーの危険さと衝動がそのまま刻まれており、緻密さよりも荒々しい勢いを体感することに価値があります。

AirPods(Pro)のような優しい音質では表現しきれない作品と思いますので、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴きましょう。

あとがき(Too Fast for Love)

わたしが10代後半に洋楽を聴き始めたころ、最初に手にしたバンドがモトリー・クルーでした(5thアルバム)。

それから、アルバムを1stから5thまで買い込み、洋楽の世界に足を踏み入れたのです。Too Fast for Loveはその出発点であり、荒削りながらも衝動に満ちた音は、当時のわたしに洋楽の魅力を伝えてくれました

アメリカのロック、そして“ワル”の象徴としてのロック。

モトリー・クルーの危険な美学と享楽的な世界観は、のちにさまざまなロックを聴いていく中でも特別な体験として記憶に残り続けています。

MTV時代の幕開けを告げ、ロサンゼルスのストリップ出身バンドを代表するToo Fast for Love

あなたにとってもお気に入りの1枚になれば嬉しいです。

この記事を書いた人

一生の中で、このアルバムに出会えてよかった

rock-streetsでは、わたしの大切なアルバムを、わたしの言葉で伝えています。
ロックであれ、ヘヴィメタであれ、感情を揺さぶる音楽は「芸術」と考えています。

Rockに限らず、クラシックも紹介していきます

目次