パンクの殻にレゲエとジャズを宿した名盤
当サイトの評価
[★★★☆]
- 1stアルバム
- リリース_1978年
- 作品名_Outlandos d’Amour
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後に世紀の名曲を生み出す英国の3ピースバンド、ポリス。
彼らは1978年11月に、アルバムOutlandos d’Amourをリリースしてデビューしました。同年は、パンクの第1波が収束局面、ボブ・マーリーらのレゲエがポップ・チャートに浸透し始めた時代でもあります。
ここでの“パンク第1波”は、1975–78年ごろの初期爆発を指す便宜的な呼称です。狭義のパンクは短命でしたが、運動自体はその後、ポストパンク/ニューウェイヴ、UK82、ハードコアなどへ連なっていきます。
デビュー当時のポリスは、パンクを装いながらも、実体はレゲエの裏拍とジャズ素養を3人編成で研ぎ澄ましたハイブリッド的な音楽性を提示していました。
メンバー自身も後年、「純パンクではなかった」「便宜的にパンクの旗印を掲げた」旨を繰り返し語っています。
本作は3人編成で音数を絞り、余白で引き締めたアルバムです。録音は残響を抑えた“ドライ”な質感で、演奏はズレや濁りを抑えた“タイト”な雰囲気が際立っています。
リズム面はパンクの勢いとレゲエ/スカの裏拍を曲ごとに切り替え、全体は短尺でフックが強い構成。演奏面では、和声(add9/sus2等)、対旋律的ベース、細かなシンコペーションを散りばめ、ジャズ的な香りを与えています。
総じて本作Outlandos d’Amourは、“装いはパンク、言語はハイブリッド”という初期ポリスのモデルを、38分弱の中で明快に提示した名盤です。
Outlandos d’Amourのエピソード
1978年、ポリスはロンドン南西・レザーヘッドのSurrey Sound Studiosで、ナイジェル・グレイのもとデビュー作Outlandos d’Amourを断続的に録音しました。スタジオの空き枠を使った夜間の低予算セッションが中心で、バンド同時録音を基本に“生のライブ感”を優先しています。
制作費はマネージャーのマイルス・コープランドからの借入。中古マルチテープの流用や卵パックを使った簡易吸音など、手作りの現場で進められています。
ビジュアル面では、同年に出演が持ち上がったウィグリー社のガムCMを契機に、3人がブロンドに脱色。結果として“パンク的な装い”を帯びた初期イメージが定着しました(CMは放送されず)。
発売直前の1978年10月にはBBC『The Old Grey Whistle Test』出演で注目を獲得。一方、シングル『Can’t Stand Losing You』はジャケット写真が物議を醸し、放送を見送られる場面もありました。
録音時の偶発も作品の一部です。『Roxanne』冒頭のピアノの不協和音と笑い声は、テイク前のハプニングをそのまま採用したものとして知られます。
アルバムは1978年11月に発売。翌年以降に徐々に浸透し、UKアルバム6位、米Billboard 200で23位を記録。シングルは再発で伸び、『Roxanne』(1979年:UK12位)、『Can’t Stand Losing You』(1979年:UK2位)、『So Lonely』(1980年:UK6位)と上位に入りました。
販売実績は米RIAAで1981年ゴールド、1984年プラチナ。低予算の出発点から、評価とセールスを後追いで積み上げた“遅効型の成功例”といえます。
Outlandos d’Amourの収録曲
- Next to You
- So Lonely
- Roxanne
- Hole in My Life
- Peanuts
- Can’t Stand Losing You
- Truth Hits Everybody
- Born in the ’50s
- Be My Girl—Sally
- Masoko Tanga
PickUp:Roxanne
日々、“赤いライト”の元で生きる女性『Roxanne』。
自らの身体を売る彼女に、「今夜は売らなくていい」と説得しつつ、嫉妬と保護欲が混ざった感情が描かれています。つまりテーマは救いたい気持ちと独占欲のせめぎ合い。
道徳的に断ずるというより、切実な懇願のトーンが前面に表れています。
サウンド面では、Aメロでレゲエ“調”の裏拍カッティングと、歌と独立して動くベース、キックを間引いたドラムで“余白の緊張”を作ります。
サビで一気に直ロックへ踏み替え、名前を強拍で呼ぶたびに切迫が増幅。
全体は中速・3人編成・ドライで、止める/切るのコントロールが輪郭を立てます。冒頭のピアノの不意打ち音と笑いはテイク前のハプニングを残したもので、最小限の音数でドラマを引き上げる本曲の美学を象徴しています。
PickUp:Born in the ’50s
戦後に生まれた世代の自己紹介/宣言として書かれた『Born in the ’50s』。
語り手は“ぼくたち(We)”という複数形で、子ども時代の出来事や空気、ケネディ暗殺の衝撃、核への不安、テレビ文化の浸透、そしてビートルズに心を奪われた体験。
それらを並べ、大人の権威に従うより自分たちで進むという意志に収束させます。懐古というより、出自を掲げる名乗りに近いトーンです。
サウンド面は複雑さを排除したストレートなロック調。乾いた8ビートとコード・ストロークが中心です。
3人編成らしいシンプルでドライな音響と、どこか懐かしみのあるサビ。そのまま夏の清涼飲料水のCMに使えそうなキャッチーさを秘めています。
おすすめの聴きかた
Outlandos d’Amourはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
なお、本作の最大の魅力は、パンクの推進力にレゲエの裏拍とジャズ素養を織り交ぜた音楽性。そして、スティングの歌と対旋律的ベース、サマーズのクリアなコード、コープランドの精緻なハイハットが生む“余白のキレ”です。
一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。
あとがき(Outlandos d’Amour)
本作Outlandos d’Amourは、ポリスのフロントマン、スティングのデビュー作でもあります。
スティングは、後に世界的な存在感を示すアーティストで、声・ベース・言葉(歌詞)・編曲的判断を一体で運用するタイプの作り手です。単一の特技を誇示するというより、複数の要素を相互に制御して“曲の機能”を成立させる点に特徴があります。
デビュー作では、後年に見られる「洗練・緻密」は息を潜め、荒々しさやパンク的な雰囲気で描かれています。一方で、すでに一部の楽曲ではレゲエの裏拍やジャズ素養がはっきり顔を出しており、後年のアーティスト性の萌芽が確認できる点が興味深いです。
なお、アルバムタイトル Outlandos d’Amour は語感優先の造語的タイトルで、d’Amour はフランス語で「愛の」を意味します。一般的には「アウトランドス・ダムール」と読みます。
直訳は難しいものの、全体としては“愛をめぐるアウトサイド感”をほのめかす語感で、異文化の語彙をロックの文法に組み替える本作の姿勢とも一致しています。
あなたにとっても、お気に入りの1枚になれば嬉しいです。