異星人“Ziggy”の物語りを描いたグラムロックの名盤
当サイトの評価
[★★★★(MAX)]
- 5thアルバム
- リリース_1972年
- 作品名_The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(邦_ジギー・スターダスト)
アルバムの原題が長いため、当記事内では『Ziggy Stardust』と表記します。
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本作Ziggy Stardustは英国のアーティスト、デヴィッド・ボウイがリリースした5作目の作品。アルバム1枚を通じて、異星のロックスター“Ziggy”の登場から栄光、そして孤独と衰退の末に破滅するまでを描く物語です。
突如、ニュースで告げられたのは、地球滅亡まで残された時間はわずか5年という衝撃的な予告。1曲目の『Five Years』でアルバムの物語りは幕を開けます。
絶望と狂気に包まれる人々の姿が鮮明に描かれた舞台は、滅亡することが告知された地球です。そして、限られた時間の中で人々がさまざまな愛にすがる様子が歌われます。
恋人同士、母と息子、宗教的信仰。愛の多様性と虚無感が漂う世界観。
続いて、その世界の悲壮と混乱の中に登場するのが、本作の主人公、バイセクシュアルな異星の救世主“Ziggy”です。
彼は自らを宇宙からの侵入者と名乗り、挑発的な姿勢で人類にメッセージを送ります。「お前らはだまって俺を見ていろ。ロックンロールを見せてやる」と。
世界は彼に熱狂し、“Ziggy”は急速にスターダムへと駆け上がっていきます。彼は人類の救世主となったのです。
中盤では、そのカリスマ性と中性的な魅力で世界を熱狂させ、ロックスター“Ziggy”の人気は頂点に達します。
しかし後半では、バンドメンバーから彼の才能とエゴが暴露され、徐々に栄光の物語りに陰りが生じます。ここで描かれているのは、単なる“嫉妬心”ではなく、スターという存在が必然的に持つ自己肥大と、それに伴う孤立です。
そして物語は最終曲『Rock ’n’ Roll Suicide』で終幕を迎えます。
孤独に苛まれ、衰退の中に立ち尽くす“Ziggy”が、最後の力を振り絞って観客に語りかけます──「君は一人じゃない」。その呼びかけは、彼自身の終わりを告げると同時に、自らの孤独にも救いを求めるような、必死の言葉でもありました。
このアルバムは、救世主の登場から栄光、そして破滅までを一枚で描き切るロック・オペラとして、物語性と音楽性を高い次元で融合させています。“Ziggy”は架空の存在でありながら、ボウイ自身や当時のロックスター像を重ね合わせた寓話でもあり、その光と影の描写は今なお名盤として語り継がれています。
Ziggy Stardustのエピソード
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Marsは、1972年6月、RCAレコードからリリースされたデヴィッド・ボウイの5作目のアルバムです。
レコーディングは1971年11月から1972年1月にかけて、ロンドンのトライデント・スタジオで実施されました。プロデュースはボウイ自身とケン・スコットが担当。前年に発表された『Hunky Dory』と並行して制作が進められ、多くの曲が同時期に書かれています。
ステージでのパフォーマンスを想定し、物語性とライブ感を兼ね備えた楽曲で構成されました。
本作は、当時英国で隆盛していたグラムロックの美学を象徴する作品でもあります。派手な衣装や化粧、性別を越えたキャラクター造形などの視覚的要素と、ロックンロールの原型に根ざしたシンプルかつ力強いサウンドを融合。
ボウイは“Ziggy”という架空のキャラクターを通じて、ジェンダーやアイデンティティのテーマに踏み込み、当時のロックシーンに大きな衝撃を与えました。
当時のボウイはインタビューで自身を「バイセクシュアル」と公言しており、社会的タブーへの挑戦としてメディアを賑わせ、Ziggy像の話題性を高めました。
アルバム発売に先立ち、シングル『Starman』がBBC「Top of the Pops」で演奏され、大きな注目を集めます。このパフォーマンスは、テレビを通して家庭のリビングに“Ziggy”の姿を焼き付け、若者文化に新たなスター像を提示しました。
リリース後、本作は英国アルバムチャートで最高5位を記録し、米国Billboard 200では最高75位にランクイン。商業的にも成功を収め、ボウイを世界的スターへ押し上げる決定打となります。
批評家からは、その独創性と完成度が高く評価され、後年にはローリング・ストーン誌やNMEなどが選ぶ「史上最高のアルバム」ランキングの常連作品となりました。
Ziggy Stardustの収録曲
- Five Years
- Soul Love
- Moonage Daydream
- Starman
- It Ain’t Easy
- Lady Stardust
- Star
- Hang On To Yourself
- Ziggy Stardust
- Suffragette City
- Rock ‘N’ Roll Suicide
PickUp:Five Years
“Ziggy”の物語の幕開けとなる『Five Years』。
ここではまだZiggyは登場しませんが、「滅亡まであと5年」と告げられた世界の混沌と狂気が描かれています。大泣きしながらニュースを読み上げるキャスターや、恐怖に支配され幼い子どもを痛めつける少女。
語り手はその場に立ち会う目撃者として、終末の世界観を目に焼き付けます。
静かな語りから始まったボウイの歌は、曲が進むにつれて感情を高ぶらせていきます。やがて主旋律を外れ、泣き崩れるように「Five Years!」と繰り返すその声は、デヴィッド・ボウイのアーティスト性を見事に表現しています。
PickUp:Starman
『Starman』は物語りの序盤から中盤に向けた楽曲。
地球に到来した“Ziggy”がラジオを通じて、人類に救済のメッセージを送っている様子が描かれます。これはロックスターとして人々を魅了し、物語を動かす救世主になるための最初の行動でもあります。
そのメッセージを耳にした語り手は友人に電話をかけ、やがて“Ziggy”の存在は静かに広まり始めます。
12弦アコースティック・ギターを基調にしたサウンドは、冒頭ではどこか暗く淀んだ雰囲気をまといながら進行しますが、サビの“There’s a starman waiting in the sky”で一気に開放的な雰囲気へ。
この転調感と広がりが、滅亡を前にした世界に差し込む希望の光を描いています。
おすすめの聴きかた
Ziggy Stardustはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
また本作は、12弦アコースティック・ギターの煌びやかな響き、タイトなリズムセクション、そしてミック・ロンソンによるストリングスやコーラスワークが一体となり、“Ziggy”の世界観を鮮やかに描き出しています。
AirPods(Pro)のような優しい音質では表現しきれない作品と思いますので、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴きましょう。
あとがき(Ziggy Stardust)
1枚のアルバムで、1つのテーマを描いた作品は少なくありません。
ただし、本作“Ziggy Stardust”のように、ペルソナ(想定ターゲット人物像)の誕生から栄光、自己肥大と孤立、そして崩壊までを音楽で描き切った作品は稀有です。ボウイは衣装やメイク、ステージ上の言動に至るまで“Ziggy”という存在を演じ切り、現実とフィクションの境界をなくしました。
その総合芸術性は、1970年代初頭の英国で発展したグラム・ロックの理想形と言えるでしょう。
そしてその物語は、架空の人物“Ziggy”だけでなく、現実のスターが背負う栄光と孤独、そして破滅の宿命をも投影しています。
後世のアーティストにとっても、コンセプトアルバムやキャラクター性の構築における模範となり、グラムロックを超えてパンクやニューウェーブ、オルタナティブロックの表現にも影響を与え続けているZiggy Stardust。
あなたにとっても「聴き継がれるアルバム」になれば嬉しいです。