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【永遠の名盤】In the Court of the Crimson King│キング・クリムゾン

目次

プログレッシブ・ロックを大衆化した歴史的美学

当サイトの評価
[★★★★(MAX)]

  • 1stアルバム
  • リリース_1969年
  • 作品名_In the Court of the Crimson King(邦_クリムゾンキングの宮殿)

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プログレッシブ・ロックを訳すると、“進歩的なロック”。1960年代後半から1970年代半ばにかけて、英国を中心に成立・発展したロック音楽の一形態です。

本作In the Court of the Crimson Kingは、プログレッシブ・ロックという概念を確立し大衆化した、ロック史に残る大名盤です。

本作以前にも、プログレッシブ・ロックを謳った作品はリリースされていますが、編成・構造・音響設計の三位一体による総合芸術的な構築性には及んでいませんでした。

多くは、「ロックにクラシック要素を足した」または「サイケデリックを拡張した」段階に留まっていたのです。

一方、In the Court of the Crimson Kingでは、編成面において、ロックバンドの標準編成に加え、メロトロン、フルート、サックス、クラリネットなどの管弦楽的要素を積極的に導入。

構造面では、全5曲がそれぞれ組曲的な性格を持ち、クラシックの楽章のように劇的に展開していきます。

音響設計においても、管弦楽器の定位やリバーブ処理などを駆使し、音場に空間的な奥行きと立体感を与える試みがなされています。

「ロック=娯楽音楽」という前提ではなく、芸術作品として提示する制作哲学。そして、「総合芸術性」や「構造的な複雑性」を重視する美学的特性。

In the Court of the Crimson Kingは、プログレッシブ・ロックという概念を明確に打ち立て、大衆へと浸透させた、原点とも言える歴史的作品なのです。

In the Court of the Crimson Kingのエピソード

In the Court of the Crimson Kingは、1969年10月、Island Records(アイランド・レコード)からリリースされたキング・クリムゾンのデビューアルバムです。

レコーディングは同年7月から8月にかけて、ロンドンのWessex Sound Studiosで行われました。当初はThe Moody Bluesのプロデューサー、トニー・クラークを起用していましたが、方向性の違いからバンド自身によるセルフ・プロデュースへ切り替えられています。

アルバム発売前の7月、バンドはローリング・ストーンズのハイドパーク公演に出演し、65万人の観客を前に圧倒的な演奏を披露。このステージでの強烈な印象が、その後の注目度を一気に高めました。

リリース後、アルバムは英国チャートで最高5位、米国Billboard 200で最高28位を記録。当時の新進英国バンドとしては異例の成功でした。特に『The Court of the Crimson King』はシングルカットされ、バンド唯一の全米Hot 100入り(最高80位)を果たしています。

本作は壮大な構成と音響の革新性から、後続のYes、Genesis、ELPなど英国プログレ勢に計り知れない影響を与え、「プログレッシブ・ロックの原点」と評されるようになりました。

ジャケットアートは、当時コンピュータ・プログラマだったバリー・ゴドバーによるもので、これが彼にとって唯一のアルバムカバー作品となりました。外側に描かれた歪んだ顔は『21st Century Schizoid Man』の主人公を、内側の幻想的な王はタイトル曲の「クリムゾン・キング」を表しています。

バリー・ゴドバーは翌1970年、24歳の若さで急逝し、このカバーは彼の遺作となりました。

クリムゾン・キング

内側に描かれている「クリムゾン・キング」は音楽ストリーミングのジャケットアートでは見ることができません。CD版のブックレットの内部に描かれています(著作権の関係上、当サイトでは掲載できません)。

In the Court of the Crimson King の収録曲

  1. 21st Century Schizoid Man (including “Mirrors”)
  2. I Talk to the Wind
  3. Epitaph (including “March for No Reason” and “Tomorrow and Tomorrow”)
  4. Moonchild (including “The Dream” and “The Illusion”)
  5. The Court of the Crimson King (including “The Return of the Fire Witch” and “The Dance of the Puppets”)
収録曲について

In the Court of the Crimson Kingには、後年のリマスター盤などで6曲目以降に“余計なボーナストラック”が追加されたバージョンも存在します。洋楽では珍しくない手法ですが、当初の“作品性”を守りたいなら、この5曲構成が本来のIn the Court of the Crimson Kingです。

アルバムとしての完成度を味わうには、オリジナル収録曲でのリスニングをおすすめします。

PickUp:21st Century Schizoid Man

アルバムの幕を開ける衝撃の1曲。歪みきったギターとサックスが一体となった凶暴なリフが、聴く者を一瞬でキング・クリムゾンの世界に引き込みます。

タイトルの日本語訳「21世紀の統合失調症」とは、冷戦やベトナム戦争、情報過多の時代に翻弄される人類の姿そのもの。断片的で暴力的な歌詞は、戦争、政治腐敗、メディア操作といった現代社会(当時)の異常性を突きつけています。

ボーカルには意図的なディストーションが施され、言葉そのものが警告音のように響きます。

演奏面では、ジャズの即興性とロックの爆発力が融合。特に中盤のインストパートは、急加速と変拍子が複雑に組み合わさり、人類の混沌を音で描いたかのようです。

ロバート・フリップの鋭いギターカッティング、イアン・マクドナルドのサックス、マイケル・ジャイルズの切れ味あるドラムが一体となって、まさに“攻撃型プログレ”の原点を提示しています。

邦題について

当初、この楽曲の邦題は「21世紀の精神異常者」とされており、原題の意味に沿った直訳でした。しかし、レコード業界の自主規制(レコード倫理審査会)により、この表現は使用されなくなります。

その後、邦題はカタカナ表記の「21世紀のスキッツォイド・マン」へと改められました。

なお、原題に含まれる “schizoid” は医学用語の「精神分裂病(schizophrenia)」と関連しますが、日本ではこの病名も後に「統合失調症」へと正式に変更されています。

PickUp:Epitaph

アルバム中盤を飾る『Epitaph』は、バンドの叙情性と構築美を象徴する楽曲です。

タイトルの日本語訳「墓碑銘」が示すように、全体を覆うのは終末への予感と深い哀感。冒頭からメロトロンのストリングスが荘厳に響き渡り、古代の神殿で奏でられるレクイエムのような空気を作り出します。

歌詞は「Confusion will be my epitaph(混迷こそが私の墓碑銘になるだろう)」という一節に集約されます。

これは冷戦下の核戦争への恐怖や、未来の不確実性に対する世代全体の不安を象徴しており、当時の社会情勢と強く共鳴しました。グレッグ・レイクの憂いを帯びたボーカルは、その言葉の重みを一層際立たせます。

楽曲構成は極めて緻密です。

Aメロの静かなアルペジオから、サビで一気にメロトロンとリズム隊が加わり、音の壁が広がる。そのダイナミックレンジの大きさは、まるでクラシックの交響曲のようです。

中盤にはマーチ風のリズムが挿入され、行進する兵士の足音を思わせる展開が物語性を強化します。終盤では、再び荘厳かつ終焉的なメロトロンと力強いドラムが重なり合い、曲は頂点へと達します。

プログレッシブ・ロックの美学を極めた歴史的名曲です。

おすすめの聴きかた

In the Court of the Crimson Kingはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。

また、本作はダイナミックレンジの広さと楽器の分離感、そしてメロトロンや管楽器が織りなす壮大な音圧が魅力の“音響体験型作品”。

1960年代の作品でありながら、音の設計は非常に精緻で、低域のベースラインもサウンド全体を支える重要な要素となっています。

AirPods(Pro)のような優しい音質では表現しきれない作品と思いますので、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴きましょう。

あとがき(In the Court of the Crimson King)

私が洋楽を聴き始めた10代後半の頃、ほぼ毎週のように、少し離れた街の輸入CDショップに足を運び、ロックの名盤と呼ばれるアルバムを買い集めていました。

In the Court of the Crimson Kingの存在はもちろん知っていましたが、あまりにも印象的なジャケットに敬遠し、しばらくは購入をためらっていました。ところが、ある日、ついに購入して聴いた瞬間に、プログレッシブ・ロックという音楽が自分の感性に合致していることを体感しました。

クラシック音楽のような緻密な構成、一枚のアルバム全体で楽章のように展開していく流れ。まだ“プログレッシブ・ロック”という呼び名が定着する前に、これほど完成された作品が登場したことは、ロック史において一種の事件と言っても過言ではありません。

リリースから半世紀以上が経った今も、新たなリスナーをプログレッシブの世界へ誘い続けているIn the Court of the Crimson King。あなたにとっても「聴き継がれるアルバム」になれば嬉しいです。

音楽ストリーミングでの解禁

実は、キング・クリムゾンの楽曲は長い間、SpotifyやApple Musicといった主要ストリーミングサービスでは配信されていませんでした。解禁されたのはごく最近で、2023年頃からです。

なお、私が愛用しているAmazon Musicでは、現在も本作の1stアルバムは未配信のままです。

この記事を書いた人

一生の中で、このアルバムに出会えてよかった

rock-streetsでは、わたしの大切なアルバムを、わたしの言葉で伝えています。
ロックであれ、ヘヴィメタであれ、感情を揺さぶる音楽は「芸術」と考えています。

Rockに限らず、クラシックも紹介していきます

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