異ジャンル要素も含むパンク・ロック
当サイトの評価
[★★★★(MAX)]
- 1stアルバム
- リリース_1977年
- 作品名_The Clash(邦_白い暴動)
Spotify(UK版)
Apple Music(UK版)
1977年、ロンドン出身の4人組バンド、クラッシュがデビュー・アルバムThe Clashを発表しました。
英国パンクといえば、まずセックス・ピストルズの名が挙がりますが、アルバムのリリースは実はクラッシュの方が先です。もっとも、公の場での初ライブやデビュー・シングルの発表はピストルズが早く、クラッシュはその初ライブをピストルズの前座として行っています。
同時期に活動したパンクの代表的バンドとして、比較されることの多い両バンドですが、作風には違いがあります。
ピストルズは、既存の社会や権威を徹底的に挑発し、破壊的な衝動と虚無的なメッセージを前面に押し出しました。一方、クラッシュは同じ反体制の姿勢を持ちながらも、労働者階級や少数派への連帯、社会問題への関与をテーマに据えています。
セックス・ピストルズ | ザ・クラッシュ |
---|---|
孤立的・虚無 | 社会的連帯 |
破壊的メッセージ | 建設的メッセージ |
全面的拒絶 | 現実的理想主義 |
また、クラッシュはパンクという枠組みで活動しながらも、実はギター担当のミック・ジョーンズは60年代ロックやレゲエにも精通しており、意外にも音楽的造詣が深かったようです。
本作The Clashからは、衝動や不満を叫ぶだけのパンクロックではなく、レゲエやガレージ・ロックなどの多面性が感じられます。
ロンドンは当時、多様な音楽が交差する都市でした。カリブ系移民がもたらしたレゲエやスカが日常的に流れ、クラッシュはその空気を自然に吸収していったのかもしれません。
そもそもパンクは、高度な音楽理論や技巧を否定し、衝動を優先するジャンルです。そのような意味では“音楽性”という言葉とは最も距離がある存在です。
しかし本作The Clashはその枠を超え、レゲエやガレージ・ロックを取り込みながらも、パンクの精神を失いませんでした。こうして本作は、英国パンクの代表として語り継がれる名盤の地位を確立したのです。
The Clashのエピソード
本作The Clashは、1977年2月にロンドンのCBSウィットフィールド・ストリート・スタジオで、当時のライヴPAも務めていたミッキー・フートをプロデューサーに迎えて録音されました。
限られた予算とタイトなスケジュールのもと、一気に仕上げたことが、生々しいパンクロックの表現につながりました。
当時の英国は不況と高失業率が大きな社会問題となっており、若者の不満と社会への反発が渦巻いていました。クラッシュの歌詞に込められた労働者階級や少数派への視線は、この時代状況を強く反映しています。
アルバムジャケットの表面には、ロンドンのカムデン地区で撮影されたバンドの姿、裏面には1976年のノッティングヒル・カーニバル暴動で警官隊が突入する実写真が用いられ、社会と音楽の緊張関係を視覚化しています。
英国でのリリースは1977年4月8日。オリジナルの英盤は正統なパンクロックを継承しながらも、のちに評価されるレゲエの影響も聴き取ることができます。
一方、米国盤は約2年後の1979年に発売され、曲順や収録曲を入れ替えた別仕様となりました。これは事実上の“編集盤”で、当時の米国側のパンク受容に合わせて曲順・収録曲が組まれています。
セールス面では、UK公式アルバム・チャートで最高12位を記録。数多くのパンク作品の中でも、現在に至るまで“パンクの教科書”として聴き継がれる名盤です。
The Clashの収録曲(UK版)
- Janie Jones
- Remote Control
- I’m So Bored with the USA
- White Riot
- Hate and War
- What’s My Name?
- Deny
- London’s Burning
- Career Opportunities
- Cheat
- Protex Blue
- Police and Thieves
- 48 Hours
- Garageland
White Riot
実際に発生した暴動に遭遇した経験を元に制作された楽曲。
クラッシュのフロントマン、ジョー・ストラマーはこの曲の背景や意図を下記のように説明しています。
“Black youth were prepared to deal with their problems—but white men… just ain’t prepared to deal with them”
(黒人の若者たちは自分たちの問題に立ち向かう準備ができていた——しかし白人の男たちは…その準備がまったくできていなかった)
—Joe Strummer(White Riot に関する発言、出典不明)
これは、“白人も自らの問題に立ち上がれ”という呼びかけが込められています。
シンプルな3コード、約2分というコンパクトな構成で“政治性と社会連帯”のメッセージを強く叫んだ、パンクの原点とされる1曲です。そしてクラッシュのデビューシングルでもあります。
Grageland
音楽誌の批評に対する痛烈な反撃として制作された楽曲。
デビュー前、クラッシュは一部のメディアから「ガレージに帰れ(=表舞台に立つ演奏ではない)」と揶揄されましたが、彼らはその言葉を逆手に取り、この曲をアルバムのラストに配置しました。
軽快なギターリフとストレートなビートに乗せ、音楽的未熟さを笑われても「自分たちは自分たちのやり方で進む」という強い意志を歌い上げています。
“ガレージ”という否定的な言葉を、バンドのアイデンティティを象徴するフレーズへと変えた、反骨精神あふれるナンバーです。
“We’re a garage band, We come from garageland”
(俺たちはガレージバンドだ。ガレージの世界からやって来たんだ)
出典:The Clash『The Clash』(1977, CBS Records)
US版のアルバムに収録されている『I Fought the Low』は、シンプルな反復がとても心地よい楽曲です。UK版には収録されていませんが、下記のリンクで視聴できますので、ぜひ聴いてみてください。
クラッシュの中でも、特におすすめの楽曲です。
おすすめの聴きかた
The Clashはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
パンク的衝動を強く感じさせる作品ではありますが、ジャンル的特性から高音質なスタジオ録音ではありません。
一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。
あとがき(The Clash)
わたしの音楽的嗜好は“構築美”や“芸術性”を重視する傾向がありますが、本作The Clashは“人生のTOP20”に入るアルバムです。
パンク・ロックというジャンルの特性上、本来はわたしの好みとは対極にあるはずなのに
また、世間のレビューでは、「衝動と攻撃性の塊」「顔面を殴られたような衝撃」といった表現をよく目にします。ですが、わたしの感想はそれとは異なります。
もっと知的かつ常識的で、パンクの情熱を秘めながらも、心地よいビートやギターソロを含む作品だと感じています。
そう。わたしにとって、このアルバムは全曲が“心地よい”のです。カッコつけず、バンドの原点のようなサウンド。
場所や気分を選ばずに、いつでも再生できます。どのような日常でも自然に入り込んでくれる“メロディ”(反パンク的表現を自覚)。
あなたにとっても「聴き継がれるアルバム」になれば嬉しいです。