アメリカロック史に刻まれたロックの咆哮
当サイトの評価
[★★★★]
[名盤・永遠の名盤]
- 3rdアルバム
- リリース_1975年
- 作品名_Born to Run(邦_明日なき暴走)
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咆哮
Born to Run、そしてブルース・スプリングスティーンを表現するのに、これほど適切な言葉は無いのかもしれません。
貧しい街の片隅に立ち尽くす若者たち。ブルース・スプリングスティーンは、「何かから逃れたい」「どこかへ行きたい」と願うティーンエイジャーの心情を、生々しいバンドサウンドでBorn to Runに込めました。
下記はタイトル曲『Born to Run』の冒頭の一節です。
“In the day we sweat it out on the streets of a runaway American dream”
(俺たちは昼間、逃げ去ったアメリカン・ドリームの街で汗を流してる)
出典:Bruce Springsteen『Born to Run』(1975, Columbia Records)
Born to Runのエピソード
ブルース・スプリングスティーンの前2作は商業的に振るわず、3rdアルバムで売れなければ契約打ち切りという、大きな重圧の中で制作されました。
これまで、流動的なメンバーでセッションに近い雰囲気のバンド活動をしていましたが、3rdアルバムの制作時にはメンバーも一新。
特に、ピアノのロイ・ビタンとサックスのクラレンス・クレモンズの存在は、Born to Runの完成度を決定付けたとも言えるでしょう。8曲目『Jungleland』のイントロのピアノと中間部2分間のサックスソロは、あまりにも美しい屈指の名演です。
Born to Runの制作費用には、中堅アーティストとしては異例の高額が投じられました。
また、アルバムの制作期間は14カ月以上、タイトル曲の『Born to Run』だけでも6カ月以上かけて録音されたBorn to Runはロック史に刻まれる、そして70年代を代表する名盤となりました。
このアルバムは商業的にも大成功をおさめ、全米チャート最高3位。これまでに900万枚以上のセールスを記録しています。
自伝の中で、ブルースは当時の想いをこう振り返っています。
“I wanted to craft a record that sounded like the last record on Earth, like the last record you might hear . . . the last one you’d ever NEED to hear.”
(僕は、まるで地球最後のレコードのような──聴く者にとって「これさえ聴けば、もう他はいらない」と思わせるようなレコードを作りたかった。)
出典:Bruce Springsteen『Born to Run』(2016, Simon & Schuster)
ブルースがクレモンズの肩に腕をかける印象的なアルバムアートは、何百枚も撮影された写真の中で、わずか数ショット、ブルースの笑顔が撮影されたものです。
ブルースはシャイで正面からの撮影を好まなかったため、この自然体の表情が採用されました。
Born to Runの収録曲
- Thunder Road
- Tenth Avenue Freeze-Out
- Night
- Backstreets
- Born to Run(明日への暴走)
- She’s the One
- Meeting Across the River
- Jungleland
「明日への暴走(Born to Run)」を除いては邦題の記載を割愛し、原題のみを掲載しています。レーベルが独自につけたほとんどの邦題は、一般に極めて質が悪く作品の本質を反映していないためです。
PickUp:Backstreets
Born to Runの中から当サイトでピックアップするトラックは「4.Backstreets」です。一般に、代表曲とされるのは「5.Born to Run」ですが、わたしにとって心を激しく揺さぶられるのはBackstreets。
友情か恋愛か。明らかにされていませんが、信頼していた人物の裏切り、そしてブルースの大きな喪失感を謳った楽曲です。
後半パートの“hiding on the backstreets” のリフレイン。繰り返されるその一節には、言葉にできない激情が乗り移ったかのようです。
芸術さえ感じるRockナンバーです。
下記はBackstreetsの一節です。
“I hated him and I hated you when you went away.”
“Hiding on the backstreets, hiding on the backstreets…”「あいつを憎んだ。君が去っていったとき、君のことも憎んだ。」
「裏通りに身を隠して、裏通りで息をひそめて…」出典:Bruce Springsteen『Born to Run』(1975, Columbia Records)
おすすめの聴きかた
Born to Runはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
また、Born to Runは14カ月もの期間を経て、膨大なダビングとエンジニアリングを重ねて完成しました。
AirPods(Pro)のような優しい音質では表現しきれない作品と思いますので、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴きましょう。
あとがき(Born to Run)
このサイトの開設を決心した日、最初に書く記事はすでに心の中にありました。
それが、今回紹介したBorn to Runです。
数あるわたしの”名盤”の中でも、Born to Runは特別な1枚です。
小学生の頃、夢中になって聴いた「We are the World」。あのとき感じたブルース・スプリングスティーンの圧倒的な存在感は、今も胸に残っています。
彼が人生をかけて制作した3rdアルバムBorn to Run。あなたにとっても「聴き継がれるアルバム」になれば嬉しいです。