全米でヒットした不良性と破壊性の体現者
当サイトの評価
[★★☆☆]
- 1stアルバム
- リリース_1987年
- 作品名_Appetite for Destruction
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Guns N’ Rosesの1stアルバムAppetite for Destructionは、アメリカのロック史において、極めて高い評価を受けている作品のひとつです。MTVによるプロモーション効果もあって、商業的にも空前の大成功を収めました。
だが、本作に対する“ロック史の金字塔”という評価には、やや違和感が残ります。
というのも、内容的にはMTV時代を象徴するキャッチーで映像映えする楽曲が中心であり、決してヘヴィメタル的な重厚さや構築美、パンク的な破壊衝動を主軸に据えた作品ではありません。
一部では「ヘヴィメタルのようなサウンド」と形容されることもありますが、実際にはノリとカッコよさを前面に出した、キャッチーで大衆向けのロックンロールです。
メロディラインは整っており、展開も素直で、“聴きやすさ”という意味では極めてポップス的。華やかで眩い80年代を象徴するアルバムです。
とりわけ『Sweet Child o’ Mine』などは、まさにMTV黄金期におけるヒット曲の典型例でしょう。
つまり本作は、破壊性や不良性を“演出”としてパッケージングした、ある意味で非常に巧妙なアルバムです。
だからこそ売れた。
そして、だからこそ“ロック”という概念を深掘りしたときには、むしろその本質から少し距離があるとも言えるのです。
Appetite for Destructionのエピソード
Appetite for Destructionは、1987年7月、Geffen Records(ゲフィン・レコード)からリリースされたGuns N’ Rosesのデビューアルバムです。
当初は注目されていなかったものの、MTVでの『Welcome to the Jungle』のヘヴィローテーションが転機となり、じわじわと火が付き始めます。
アルバムはリリースから1年近く経った1988年8月に、全米チャート1位を獲得。ここまで時間をかけてブレイクしたアルバムは当時としては異例でした。
収録された『Sweet Child o’ Mine』は、バンド唯一の全米1位シングルであり、ギタリストのスラッシュが練習中にふと弾いたフレーズを軸に完成したと言われています。
この曲の成功により、バンドはより広い層に知られるようになり、アルバムは全世界で3000万枚以上のセールスを記録しました。
リリース当初のジャケットは、ロバート・ウィリアムズによるショッキングなアートワークが使用されていましたが、流通側の反発により、後に現在知られる十字架に5人のスカルをあしらったデザインに差し替えられました。
この変更もまた、バンドの“過激さ”や“問題児”的なイメージを定着させる一因となりました。
Appetite for Destructionの収録曲
- Welcome To The Jungle
- It’s So Easy
- Nightrain
- Out Ta Get Me
- Mr. Brownstone
- Paradise City
- My Michelle
- Think About You
- Sweet Child O’ Mine
- You’re Crazy
- Anything Goes
- Rocket Queen
PickUp:Welcome to The Jungle
アルバム冒頭を飾るこの楽曲は、Guns N’ Rosesという存在そのものを象徴するような一曲です。イントロの不穏なギターリフと、アクセル・ローズの甲高いシャウト。
そこに広がるのは、都会=ジャングルの狂気と欲望を詰め込んだような音像です。
アクセルが初めてロサンゼルスに降り立ったときの衝撃体験を元に書かれたとされるこの曲は、アメリカ社会の裏側に潜む暴力やドラッグ文化、若者の焦燥感をむき出しに描いています。
その描写は決して比喩的ではなく、あまりにも直接的。「ここはジャングルだ、お前を引き裂いてやる」と歌うボーカルからは、支配欲や性的衝動までもが剥き出しで、理性の輪郭すら曖昧になっているような危うさが感じられます。
Rock性には触れませんが、アクセル・ローズ(Vo)は純粋に“カッコよい”です。
おすすめの聴きかた
Appetite for Destructionは、1987年リリースという時代背景もあり、録音環境やミックスバランスが優れた作品です。
各楽器の定位も明確で、ギターの歪み・ドラムの抜け・ベースの重心、そしてアクセル・ローズの突き刺さるようなボーカルが、それぞれ高い解像度で収録されています。
そのため、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴くことをお勧めします。
あとがき(Appetite for Destruction)
世間的には「ロック史に残る名盤」として語られることの多いAppetite for Destruction。
たしかに、セールス、影響力、時代背景を含めて、歴史的な位置づけにある作品であることは間違いありません。
しかし本文でも触れたように、本作はMTV時代という映像主導のメディア環境の中で生まれた“ヒットチャート寄りのアルバム”です。
内側から突き上げるような“内的衝動性”よりも、表層的なカッコよさや演出されたワルっぽさが際立っており、むしろ90年代に日本のチャートを賑わせた“ビジュアル系”に近い感覚さえあります。
とはいえ、本作は決して“ロックを軽視した作品”ではなく、ロックの語彙でポップス性を最大化した時代的傑作とも言えるでしょう。だからこそ、ロックの入り口としては最適な1枚です。
70年代の名盤と同じ土俵で語ることはできなくとも、時代の熱とカッコよさを手軽に味わえる1枚として、今なお聴く価値のある作品です。
1stアルバムで見せた爆発的なエネルギーの内に、アクセルは破壊だけではない多面的表現を求めていました。次作『Use Your Illusion』では、その内に秘めた詩情、構築力、そして繊細さが、一斉に表面化します。