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【名盤】Dreamboat Annie│ハート

目次

アコースティックとロックが調和した夢物語

当サイトの評価
[★★★☆]

  • 1stアルバム
  • リリース_1975年
  • 作品名_Dreamboat Annie

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Dreamboat Annieは、アメリカの女性バンド、ハートのデビュー作。

このアルバムは、ギターリフが印象的なハードロック・ナンバー『Magic Man』で幕を開けます。アン・ウィルソンのハスキーさを含む歌声と、ナンシー・ウィルソンのギターはRockそのもの。

女性でもRockは成立する

この作品は、それを証明するかのような1枚です。後にナンシー・ウィルソンは次のように語っています。

“It wasn’t originally a gender-conscious story. We were just one of the people on the playing field with all the guys.”

(私たちは活動を始めた当初、ジェンダーを意識した物語ではなかった。…“男たちと同じ土俵”にいる一員だっただけ)

出典:Ultimate Classic Rock, interview with Nancy Wilson (2024)

しかし、Dreamboat Annieは、単にロックを意識しただけのアルバムではありません。

アコースティックな質感や、静かな海面を思わせるような浮遊感。幻想的で詩的な側面も織り交ぜながら、アルバム全体がドラマティックに展開されていきます。

Dreamboat Annieのエピソード

ハートのデビュー作Dreamboat Annieは、1975年、カナダのインディーズ・レーベル「Mushroom Records」からリリース。翌1976年にはアメリカでも発売され、商業的成功を収めました。

アルバムに収録された『Magic Man』や『Crazy on You』は、アンとナンシーの個性を前面に押し出した楽曲で、ラジオでの再生回数も増加。

特に『Crazy on You』は、ナンシーによるアコースティック・ギターのイントロからエレキへと展開する構成が見事で、ハートの“アコースティックとロックの融合”を象徴する代表曲となりました。

物語的な構成を持つこのアルバムでは、楽曲の配置が単なる順番ではなく、ひとつの“ストーリー”を描くように計算されているようにも感じられます。

カナダ発の本作は全米チャートでも成功を収め、女性主体のロック・バンドとして異例のデビューを果たしました。以後、ハートはアメリカのメジャーレーベルと契約し、本格的に活動を展開していきます。

Dreamboat Annieの収録曲

  1. Magic Man
  2. Dreamboat Annie (Fantasy Child)
  3. Crazy on You
  4. Soul of the Sea
  5. Dreamboat Annie
  6. White Lightning and Wine
  7. (Love Me Like Music) I’ll Be Your Song
  8. Sing Child
  9. How Deep It Goes
  10. Dreamboat Annie (Reprise)

PickUp:Magic Man

ハート初期の代表曲のひとつであり、ロックの力強さと妖艶さが共存する楽曲です。

冒頭からミステリアスで引き込まれるような空気感を秘めています。エレキギターの印象的なリフとアン・ウィルソンの色気を帯びたボーカルが重なり、バンドのロック的側面を強調。

歌詞はタイトルの通り「魔法の男」との関係を描いたもので、年上の恋人に惹かれていく若い女性の心情がリアルに綴られています。この楽曲は、アン・ウィルソン(Vo)が当時交際していたバンドマネージャーとの関係がもとになっているとも言われているようです。

ポップな聴きやすさの裏側に、女性ボーカルならではの“色気”や“毒気”が感じられる1曲です。

下記は収録曲『Magic Man』の一節です。

“Mama says she’s worried, Growing up in a hurry, Yea”

(お母さんは心配してるの、私が急いで大人になっていくのを)

Heart『Dreamboat Annie』(1975, Mushroom Records)

PickUp:Dreamboat Annie

アルバムのタイトルにもなっている『Dreamboat Annie』は、全体を通して3つのバージョンが収録されています。

冒頭の「2.Fantasy Child」、中盤の「5.Dreamboat Annie」、そして終盤の「10.Reprise」。どれもアルバムの世界観をつなぐ“主題曲的”な存在です。

「5.Dreamboat Annie」では、ナンシーのアコースティック・ギターとアンのボーカルがやさしく重なり合い、素朴で温かみのある情景を描き出します。一方、「10.Reprise」はドラムとベースというロック編成にピアノとフルートが加わり、バラード調に美しく展開しています。

ひとつの楽曲が姿を変え、織りなされていく構成にも耳を傾けながら、アルバム前半から後半への流れを楽しんでみてください。

おすすめの聴きかた

Dreamboat Annieはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。

Rock的な衝動を感じさせる作品ではありますが、スピード感や激しさとは異なるため、一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。

あとがき(Dreamboat Annie)

このアルバムのタイトルDreamboatの“ドリームボート”とは、英語の古い表現で「魅力的な恋人」「理想の人」を意味する口語表現です。とくに1950年代以降、愛おしさや憧れを込めたニュアンスで使われてきました。

そこに人名のように「Annie(アニー)」が続くことで、「理想の恋人アニー」という意味にもなりますが、重要なのは「アニー」という名が実在の人物ではなく、心の中に浮かぶ幻想的な存在のように描かれている点です。

曲中でも“She’s the woman of the sea / She’s everything to me”と歌われるように、アニーは海と結びつけられた幻想の女性であり、理想や夢の象徴として描かれています。

つまり、タイトル『Dreamboat Annie』は、単なる人名ではなく、夢・愛・逃避・幻想といったテーマを内包した象徴的な存在として、このアルバム全体の詩情と物語性を象徴しているのです。

大人になる途中の女性が抱く、“淡くて少し切ない恋心”のような雰囲気を秘めたDreamboat Annie。あなたにとってもお気に入りの1枚になれば嬉しいです。

この記事を書いた人

一生の中で、このアルバムに出会えてよかった

rock-streetsでは、わたしの大切なアルバムを、わたしの言葉で伝えています。
ロックであれ、ヘヴィメタであれ、感情を揺さぶる音楽は「芸術」と考えています。

Rockに限らず、クラシックも紹介していきます

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