抒情性と構築美を湛えたメタルの呪術書
当サイトの評価
[★★★★(MAX)]
- 1stアルバム
- リリース_1980年
- 作品名_Blizzard of Ozz(邦_ブリザード・オブ・オズ〜血塗られた英雄伝説)
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ブラック・サバスを解雇され、“どん底”に堕ちたオジー・オズボーン。アルコールとドラッグに溺れ、世間からは「終わった男」とさえ見なされていました。
しかし、後に妻となるシャロン・アーデンの献身的な支えによって、彼は新たなバンドを結成します。そして、運命に導かれるように、彼のもとに現れたのが若き悲劇のギタリスト、ランディ・ローズでした。
このロック史、メタル史に残る大傑作となったBlizzard of Ozzは、オジー・オズボーン、ランディ・ローズのどちらが欠けても絶対に完成することはなかったでしょう。
オジーの“唯一無二”のオカルトで浮遊感のある声質、そしてランディ・ローズの抒情的なギターの音色がなければ、この“構築美”は描けなかったのです。
楽曲の各所で現れる“鳴きのギター”は、ただ激しく重いだけではないメタルの新境地に到達し、他のバンドでは描けない世界を完成させました。
またオジーのボーカルは、その世界を描くための絶対的要素である“天性の声”。その音色には、ブラック・サバスと決別した男の“再起の情念”が宿っています。
抒情性と構築美によって、新境地のメタルを見せつけたBlizzard of Ozzは、名盤として永遠に語り継がれることでしょう。
Blizzard of Ozzのエピソード
Blizzard of Ozzの制作は、1979年末から1980年にかけて進められました。
メンバーには、オジー・オズボーン(ボーカル)、ランディ・ローズ(ギター)に加え、ボブ・デイズリー(ベース)、リー・カースレイク(ドラムス)が参加。レコーディングはイギリスで行われ、当初は“バンド名:Blizzard of Ozz”としてのリリースが予定されていました。
しかしリリース直前、Jet Recordsの判断により、アルバム名はそのままに、名義のみ「オジー・オズボーン」へと変更されました。そのため、他のメンバーたちは“ソロのバックバンド”と位置づけられ、後年まで尾を引く確執が生まれます。
後の2002年リマスター盤では、デイズリーとカースレイクの演奏が差し替えられるなど、前代未聞の“音源改竄”にも発展しました(2011年の再リマスター版で復元)。
アルバムは1980年9月、イギリスで発売。翌1981年にはアメリカでもリリースされ、『Crazy Train』や『Mr. Crowley』といった楽曲がヒット。これはオジーにとって名実ともに“奇跡の復活作”となり、彼の新たなキャリアの起点として高く評価されました。
本作のプロデュースには、もともとエンジニアとして関わっていたマックス・ノーマンが途中から加わり、技巧と抒情性、構築美が溢れるサウンドを構築。完成した作品は、メタルというジャンルの枠を超えた、歴史的名盤となったのです。
“When I left Sabbath, I thought that was the end. I was a wreck. But then I met Randy, and everything changed.”
(サバスを離れたとき、すべてが終わったと思った。俺はボロボロだった。でも、ランディに出会って、すべてが変わったんだ)
出典:Ozzy Osbourne『I Am Ozzy』(2010, Grand Central Publishing)
Blizzard of Ozzの収録曲
- I Don’t Know
- Crazy Train
- Goodbye to Romance
- Dee
- Suicide Solution
- Mr. Crowley
- No Bone Movies
- Revelation (Mother Earth)
- Steal Away (The Night)
Blizzard of Ozzには、後年のリマスター盤などで10曲目以降に“余計なボーナストラック”が追加されたバージョンも存在します。洋楽では珍しくない手法ですが、当初の“作品性”を守りたいなら、この9曲構成が本来のBlizzard of Ozzです。
アルバムとしての完成度を味わうには、オリジナル収録曲でのリスニングをおすすめします。
PickUp:Crazy Train
Blizzard of Ozzを代表する1曲。ロック史に永遠に残るであろう、“完成されたリフ”が刻まれる『Crazy Train』。
タイトルからはダークで不穏な印象を受けますが、実は強い社会的・人間的メッセージを秘めています。
この「Crazy Train(狂った列車)」とは、現代社会そのもの。戦争や差別に明け暮れる人類の異常性を突きつけながら、「こんな狂った列車からは降りてやる」と謳われています。
終始リズムギターとリフが心地よく、ランディ・ローズの存在感が光るRockナンバーです。
PickUp:Revelation (Mother Earth)
Blizzard of Ozzからの2曲目のPickUpは『Revelation』。この曲を聴いて、感情が震えないRockファンは皆無でしょう。メタルにおける“構築美”の完成形とも言える、壮大な楽曲です。
イントロは断罪を告げるかのような荘厳なエレクトリック・ピアノ。まるで天から審判が下されるかのような威圧的な旋律を奏でます。
やがて、「母(地球)よ。彼らを赦してやってください」と、オジーの憂いを帯びたボーカルが始まり、構築美の物語が幕を開けます。
全体を通して荘厳な雰囲気を湛えた本曲ですが、中盤以降はピアノが主旋律を担うパートへと移行します。その響きはピアノソロというにはあまりに格調高く、“ピアノ協奏曲”と呼ぶべき美しさ。
最後はロック的でメロディアスな短いギターソロへと遷移し、クラシカルな構築美の極致を描き切ったのち、ラストトラックへとバトンが渡されます。
3曲目『Goodbye to Romance』は、過去のブラックサバスに別れを告げるバラード曲。ランディ・ローズのギターソロは“新しい仲間”として、オジーの苦悩を洗い流してくれるかのような美しさを秘めています。
こちらもぜひ、お聴きください。
おすすめの聴きかた
Blizzard of Ozzはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
また、本作は構築された楽曲の流れと音響美が重要な“音楽の設計作品”。
AirPods(Pro)のような優しい音質では表現しきれない作品と思いますので、音圧や躍動感の強いリスニング環境で聴きましょう。
あとがき(Blizzard of Ozz)
わたしが洋楽を聴き始めたのは、いまから約30年前。
当時はもちろん、音楽ストリーミングなど存在せず、情報源も限られていました。少し離れた街の輸入CDショップに通い、見知らぬアーティストの作品を手に取っては試していた時代です。
期待外れのアルバムに出会うことも珍しくない中、Blizzard of Ozzは違いました。聴いたこともない声質に壮大な楽曲、そしてRock。
すぐに魅力に惹き込まれ、続けて2nd、3rdを購入したことを覚えています。
本作は、ヘヴィメタルの構築美を描いた名盤でありながら、たとえばレインボーの大名盤『Rising』のような重厚感とは少し異なり、メロディアスでハードロック寄りの親しみやすさもあります。
オジー・オズボーンとランディ・ローズという才能が出会い、奇跡的に生まれたBlizzard of Ozz。あなたにとっても「聴き継がれるアルバム」になれば嬉しいです。
July 22, 2025 – You will live forever in my heart.