【アルバム】The Motels(モーテルズ)

当サイトの評価
[★☆☆☆]

  • 1stアルバム
  • リリース_1979年
  • 作品名_The Motels(バンド名と同様)

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目次

名曲に支えられたデビュー・アルバム

本作The Motelsは、モーテルズの1stアルバム。80年代の華やかな音楽シーン前夜、1979年にリリースされました。

当時、バンドの中心人物であるボーカルのマーサ・デイヴィスはすでに28歳を迎えており、一般的なアーティストとしては遅咲きのデビューといえます。

バンドの起源は1971年、カリフォルニア州バークレーにさかのぼります。マーサを中心に始まった初期モーテルズは、音楽的な方向性が定まらず、家庭の事情も重なって一度解散しています。

マーサはこの間に結婚・出産・離婚を経験し、創作活動から離れていた時期もありました。

その後、1975年ごろにロサンゼルスへ移り、新たなメンバーとともにバンドを再結成します。クラブ・シーンでのライブ活動を通じて徐々に評価を高めましたが、当時の音楽業界はディスコブームの真っ只中。女性ボーカルを中心としたロックバンドは、商業的に成功する可能性が低いと見なされ、レーベル契約には至りませんでした。

転機が訪れたのは1979年。ニューウェーブが台頭し、ブロンディやトーキング・ヘッズといったアーティストが脚光を浴び始めた頃です。マーサの描く哀愁を帯びた楽曲もこの流れに乗り、キャピトル・レコードとの契約が決まりました。

リリースされた本作The Motelsはマーサにとって念願のメジャー・デビューとなりましたが、「アルバム」として音楽性を確立するには至らず、どこか“アマチュア感”を残した作品に感じられます。

しかし、このアルバムにはマーサにしか歌えない名曲『Total Control』が収録されています。

The Motelsのエピソード

The Motelsは1979年にリリースされたバンドのデビュー・アルバムです。

バンドとしての空白期間を経た1978年頃からハリウッドのクラブで精力的なライブ活動を行い、徐々に知名度を高めたモーテルズは1979年、メジャーレーベルのキャピトル・レコードと正式に契約。

本作The Motelsの制作はロサンゼルスのキャピトル・スタジオで行われ、プロデューサーにはJohn Carterが参加。Carterはマーサ・デイヴィスの繊細な作詞世界を尊重し、過度な演出を避けてライブ感を残す録音を重視したと伝えられています。

モーテルズはライブで培った感覚のままスタジオに入り、アレンジは現場で組み上げられることが多かったためか、まだアルバムとしての一貫性は見られません。

リリース後も、アルバムは商業的成功には至りませんでしたが、収録されている楽曲『Total Control』だけは突出した魅力を秘めています。

マーサの官能性溢れるヴォーカルとミドルテンポの旋律、そして中間部の吹奏楽器を含め、この瞬間にしか生まれなかったような情感を帯びています。この1曲が、アルバムの価値を支えているといっても過言ではないでしょう。

The Motelsの収録曲

  • Anticipating
  • Kix
  • Total Control
  • Love Don’t Help
  • Closets And Bullets
  • Atomic Cafe
  • Celia
  • Porn Reggae
  • Dressing Up
  • Counting

Total Control

楽曲名の『Total Control』とは、完全な自己制御への渇望。

歌詞世界は、恋愛が破綻した後の女性心情と理性を取り戻したい欲求が冷静に描かれています。「あなた」を拒絶しているのに、「あなた」のことばかり考えてしまう。

自分の理性を取り戻し、抑えたい。

その願望がTotal Controlという単語で、何度もくり返されます。

そして、マーサの歌声はとても官能的。表面的な色気ではなく、声質や微細なヴィブラート、呼吸のようなブレスの使い方。挑発的でも甘さでもなく、“密室の距離感”のような錯覚を感じさせます。

これは意図された雰囲気。『Total Control』は、演奏を同時に録る「セミ・ライブ形式」で録音されました。さらに、録音時にはスタジオの照明はすべて落として演奏されたそうです。

“When we recorded Total Control, we turned off all the lights in the studio.”
“It was the only way to get that feeling right — the intimacy, the loneliness.”

(Total Controlの録音のとき、スタジオの明かりを全部消したの。)

(あの感覚を出すには、それしか方法がなかったの。親密さとか、孤独感とか、そういう空気を録りたかったのよ。)

出典:Martha Davis, Rearview Mirror インタビュー(2022年3月)

おすすめの聴きかた

当サイトでは基本的に、アルバムは1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めしていますが、本作The Motelsはまだアルバム全体で一貫した音楽性を有するほど、成熟していません。

収録されている名曲『Total Control』を中心に聴いてもよいと思います。

なお、音圧や躍動感重視ではなく、“音場”がよいリスニング環境が本楽曲の魅力を引き出せると思います。iPhoneとAir Pods(Pro)などの組み合わせも最適でしょう。

あとがき(The Motels)

今回は、アルバム全体よりも収録された楽曲『Total Cotrol』の魅力を紹介するような記事となりました。

1曲目からラストまで、一貫した作品性で制作されたアルバムが素晴らしいのは事実ですが、アーティストの創作時期や状態によっては、必ずしもアルバムとして輝くとは限りません。

『Total Control』という名曲と3rdアルバム以降の彼女らの活躍が、本作に“意義”を与え、歴史に埋もれてしまうのを防いだように思います。

別れと喪失感。そして理性を取り戻し、完全な自己制御を求める女性の切望が官能的に謳われた名曲。

ぜひ聴いてみてください。

“And I’d sell my soul for total control.”

(魂を売ってでも、完全な支配がほしい)

出典: The Motels『The Motels』(1979, Capitol Records)

この記事を書いた人

一生の中で、このアルバムに出会えてよかった

rock-streetsでは、わたしの大切なアルバムを、わたしの言葉で伝えています。
ロックであれ、ヘヴィメタであれ、感情を揺さぶる音楽は「芸術」と考えています。

Rockに限らず、クラシックも紹介していきます

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