当サイトの評価
[★☆☆☆]
- 3rdアルバム
- リリース_1978年
- 作品名_Heaven Tonight
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バンドの最高傑作と名高いパワーポップの名盤
チープ・トリックの3作目となるアルバムHeaven Tonightは、1978年にEpicレーベルからリリースされました。
2ndアルバムと同様にトム・ワーマンがプロデュースを担当し、ロサンゼルスのSound CityやRecord Plantといった名門スタジオでレコーディングされています。
前作『In Color』はデビュー作の荒削りさを整え、ポップな側面を前面に押し出した作品でしたが、一方で軽さが強調されすぎたとも批評されました。これに対して本作Heaven Tonightは、ポップの旋律美を保ちながら、ハードロックの迫力と厚みを加え、理想的なサウンドバランスを実現しています。
特徴的なのは、ベーシストのトム・ピーターソンが導入した12弦ベースです。通常の4弦にはない倍音を含み、ギター的な響きを低域に加えることで、バンド全体の音に重層感を生み出しました。
さらに、リック・ニールセンはハープシコードやマンドチェロといった装飾的な楽器も使用し、サウンドの幅を広げています。
収録曲『Surrender』は、親世代を題材にしたユーモラスでシニカルな歌詞と、キャッチーなサビが融合した代表曲であり、バンド初の全米シングルチャート入りを果たしました。対照的にタイトル曲『Heaven Tonight』では薬物や死生観を暗示し、重厚な雰囲気を漂わせています。
こうした軽快さと陰影の対比がアルバムに深みを与えています。
『In Color』がポップ性を際立たせた作品だとすれば、Heaven Tonightはそこに重量感を与え、バンドの理想形に整えたチープ・トリックの代表的スタジオ盤です。
ポップスほど声楽寄りではなく、ハードロックほど激しくもない。その中間に位置する絶妙なバランスを持つ本作は、チープ・トリックの最高傑作と名高いアルバムとして評価されています。
Heaven Tonightのエピソード
Heaven Tonightの制作は、ロサンゼルスのSound CityやRecord Plantといった名門スタジオで行われました。
短期間ながら集中的なセッションによって録音が進められ、当時のアメリカで主流だった“大規模アリーナ向けの音響”と“FMラジオに適した分離感”を意識したプロダクションが採用されています。
1970年代後半のロックシーンは、レッド・ツェッペリンに代表されるアリーナ・ロックの壮大さと、パンクやニューウェーブの衝動的なシンプルさが同時に存在する時代でした。
その狭間でチープ・トリックは、ビートルズ的なメロディセンスと厚みのあるサウンドを同時に提示し、“パワーポップの正統派”として評価されるポジションを確立しました。
リリース当初、本作はアメリカ本国で爆発的なヒットには至りませんでしたが、アルバムはBillboard 200にチャートインし、シングル『Surrender』はバンド初の全米シングルチャート入りを果たしました。
これは彼らにとって重要な前進であり、翌年にアメリカで大ブレイクを果たす布石となります。
同年4月には日本武道館公演が実現し、その録音盤が1979年に全米で『At Budokan』としてリリースされました。
本作Heaven Tonightは、チープ・トリックがスタジオ盤で到達した完成形を示すと同時に、ライヴ盤での世界的成功へと繋がる“助走”の役割を果たしたアルバムとして位置づけられています。
Heaven Tonightの収録曲
- Surrender
- On Top of the World
- California Man
- High Roller
- Auf Wiedersehen
- Takin’ Me Back
- On the Radio
- Heaven Tonight
- Stiff Competition
- How Are You?
- Oh Claire
PickUp:Surrender
チープ・トリックの代表的な楽曲であり、初めて全米シングルチャート入りしたナンバーでもあります。
軽快なリズムとキャッチーなサビを軸にしながら、歌詞は親世代の価値観をシニカルに描き出しており、反抗的なティーン像をユーモラスに浮かび上がらせています。
その絶妙なバランスは、当時の若いリスナーに受け入れられ、後年までライヴの定番曲として演奏され続けています。
特にコーラスの高揚感は、パワーポップの理想形と評されるほどの完成度を誇り、チープ・トリックの存在を広く知らしめた決定的な1曲となりました。
“Mommy’s alright, Daddy’s alright, they just seem a little weird, Surrender, surrender”
(ママもパパも悪くないさ、そう、ちょっと変に見えるだけさ。受け入れろよ、降参しろよ)
出典:Cheap Trick『Heaven Tonight』(1978, Epic Records)
PickUp:Heaven Tonight
アルバムのタイトル曲であり、作品全体のムードを彩る異色のナンバーです。
マンドチェロやハープシコードといった装飾的な音色が重ねられ、全体的に陰鬱な雰囲気を描いています。歌詞は薬物依存や死生観を暗示する内容で、ポップで明るい『Surrender』とは対照的な重苦しい世界観。
静かに進行するリズムの中で、不安を増幅させるようなアレンジが展開され、アルバムに深みと多様性を与えています。単なるパワーポップの枠を超え、チープ・トリックが表現の幅を広げたことを表す楽曲といえるでしょう。
おすすめの聴きかた
Heaven Tonightはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
本作はハードロックの雰囲気を帯びているとはいえ、そこはチープ・トリックの音世界。やはり、メロディセンスとキャッチーな楽曲が魅力の作品です。
一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。
あとがき(Heaven Tonight)
チープ・トリックがリリースしたライヴ盤『at Budokan』は後年まで聴き継がれる名盤。
わたしも好きなバンドのひとつではありますが、どうしても「あと一歩」が足りないと感じてしまいます。本作についても、ハードロックに寄せず、もっとポップスの方向でエンターテインメント性を追求したほうが、よりチープ・トリックらしさが発揮されたのではないかと思います。
タイトルナンバー『Heaven Tonight』の惜しさも顕著です。オジー・オズボーンのような世界に近づきつつも、重々しさと構築美が足りない印象を受けます。
割り切って、『Surrender』の方向性で全曲を構成できていたら、どのような作品になったのでしょう。
ビジュアル、ロック性、メロディセンス。どれも一定の魅力はあるのですが、やはり「あと一歩」。ただ、その少し不器用なところも含めて、チープ・トリックらしさとして愛されているのかもしれません。
一方で、本作がパワーポップの名盤として評価されているのも事実。あなたにとってお気に入りの1枚になれば嬉しいです。