大ヒット「ライヴ作品(at Budokan)」の原作アルバム
当サイトの評価
[★☆☆☆]
- 2ndアルバム
- リリース_1977年
- 作品名_In Color(邦題:蒼ざめたハイウェイ)
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本作In Colorは、アメリカのパワーポップバンド、チープ・トリックの2ndアルバムです。
1977年にリリースされ、プロデュースはトム・ワーマン。前作のデビュー盤に比べると、粗削りな衝動よりもポップに傾倒した音作りになっており、バンドの方向性を明確にした作品です。
収録曲には『I Want You to Want Me』や『Clock Strikes Ten』といった後の代表曲が並びますが、本作では軽快でキャッチーな仕上がりになっており、楽曲本来の魅力は引き出せなかったようです。
実はチープ・トリックは、デビュー後もしばらく本国アメリカでは大きな成功を収められませんでした。
本作も同様でセールスは伸びませんでしたが、日本ではラジオのオンエアをきっかけに人気が広がり始めます。
そして、In Colorリリース翌年の1978年、日本側の要請で武道館公演が実現。
その武道館公演を録音したアルバム『at Budokan』は当初、日本限定のライヴアルバムとしてリリースされました。しかし、日本での反響は予想以上に大きく、輸入盤としてアメリカに波及するほどの話題作となります。
スタジオ盤In Colorに収録されていた『I Want You to Want Me』は、アメリカではほとんど注目されませんでしたが、『at Budokan』で披露されたライブ版は、テンポも力強さも増し、観客の大合唱が加わることでスタジオ版を凌ぐ迫力で演奏されていたのです。
結果的に、ライヴ盤からシングル・カットされた『I Want You to Want Me』は、アメリカでも大ヒットを記録します。
ロック史において「ライヴ盤が決定的な代表作」として語られる例は多くありません。しかしチープ・トリックは、武道館での熱狂を収めた『at Budokan』によって世界的な評価を獲得した数少ないバンドです。
In Colorのエピソード
In Colorは1977年、エピック・レコードからリリースされました。録音はロサンゼルスのKendun Recordersで行われ、プロデュースはトム・ワーマンが担当しています。
ワーマンは本作において、デビュー盤で見られた荒々しいサウンドを抑え、ラジオで流しやすいポップな方向性へと仕上げました。
当時のアメリカ音楽シーンでは、パンクの台頭とアリーナ・ロックの拡大が同時に進行。チープ・トリックはその中間に位置する存在として、ハードロックの重量感を残しつつ、60年代的なポップセンスを有していました。
本作はそのバランスをスタジオ盤として定着させた最初の作品です。
アルバムジャケットには、バイクに跨るロビン・ザンダーとトム・ピーターソン、そして裏面にモペッドに跨るリック・ニールセンとバン・E・カルロスが描かれています。
美形メンバーと風刺的メンバーを対比的に扱うこのデザインは、バンドの二面性とユーモアを視覚化したものでした。
リリース直後のアメリカにおけるチャート成績はBillboard 200で最高73位と、必ずしも大きな成功には至りませんでした。しかし日本では『I Want You to Want Me』や『Clock Strikes Ten』がラジオで盛んにオンエアされ、バンドは早くも熱心なファン層を獲得します。
こうしたアメリカ国外での人気が、翌1978年の日本武道館公演、さらに1979年の大ヒット作『at Budokan』へとつながっていくのです。
In Colorの収録曲
- Hello There
- Big Eyes
- Downed
- I Want You to Want Me
- You’re All Talk
- Oh Caroline
- Clock Strikes Ten
- Southern Girls
- Come On, Come On
- So Good to See You
PickUp:Hello There
アルバムの幕開けを飾るナンバーであり、チープ・トリックのライヴを象徴する定番曲です。2分に満たない短い曲ながら、勢いのあるリフと畳みかけるような展開で、リスナーを一気に作品世界へと引き込みます。
歌詞は「Hello there, ladies and gentlemen」と、まさに観客への呼びかけそのもので、ライヴのオープニングを意識した構成。実際にコンサートでも冒頭に演奏されることが多く、武道館公演を収録した『at Budokan』でも鮮烈なオープニングを飾っています。
シンプルかつストレートなこの曲は、アルバムの方向性を示すとともに、チープ・トリックが持つ“ライヴ・バンド”としての本質を表しています。
“Hello there ladies and gents, Are you ready to rock?”
(やあ、みなさん。ロックする準備はできてるかい?)
出典:Cheap Trick『In Color』(1977, Epic Records)
PickUp:I Want You to Want Me
チープ・トリックの代表曲として知られるナンバーです。
本作に収録されたスタジオ版は、軽快でキャッチーなアレンジが施され、ポップな印象を強めています。しかしアメリカでは当初ヒットに至らず、その魅力は十分に評価されませんでした。
転機となったのは翌年の武道館公演。観客の大合唱とともに演奏されたライヴ版は圧倒的な熱量を持っており、翌1979年にシングル化されると全米シングルチャート7位を記録する大ヒットとなりました。
スタジオ盤とライヴ盤でこれほど評価が逆転する楽曲は、ロック史においても稀な存在です。
軽快なメロディと親しみやすいサビを持ちながら、ライヴではロックの衝動を魅せる。『I Want You to Want Me』は、日本武道館での瞬間的な輝きによって、再評価された楽曲といえるでしょう。
“Didn’t I, didn’t I, didn’t I see you crying?”
(僕は見たよね、君が泣いているのを――そうだろう?)
出典:Cheap Trick『In Color』(1977, Epic Records)
おすすめの聴きかた
In Colorはアルバム1枚で完結している作品です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。
本作は軽快でキャッチーなメロディと整理されたアレンジ、親しみやすいポップセンスが魅力であり、シーンを問わず気軽に楽しめる作品です。
一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。
あとがき(In Color)
本作In Colorは、チープ・トリックが持つポップセンスを前面に押し出した最初のアルバムです。
ハードロックの要素も秘めつつ、軽快なメロディとキャッチーなアレンジを強調することで、デビュー盤とは異なる方向性を提示しました。
チャート的には大きな成功に至らなかったものの、ここで描かれたサウンドは後の活動の基盤となり、バンドの個性を明確にした点で重要です。
特に『Hello There』や『I Want You to Want Me』といった楽曲は、スタジオ盤での洗練された形を経て、のちにライヴの場で定番曲として確立していきました。
In Colorは、単独で名盤と評される作品ではなくても、チープ・トリックの進むべき方向を定め、代表曲の“原点”を収めた一枚です。70年代後半のパワー・ポップを語るうえで外すことのできない作品として、今も十分に聴き応えがあります。
