ジェンダーレスな存在感で80’sカルチャーを風靡した名盤
当サイトの評価
[★★☆☆]
- 2ndアルバム
- リリース_1983年
- 作品名_Colour by Numbers
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本作Colour by Numbersは、英国のカリスマ的アーティスト、ボーイ・ジョージ率いるカルチャー・クラブの2ndアルバムです。
デビュー作のポップでカラフルな作風を受け継ぎながら、今作ではゴスペルやソウルの要素が強まり、より豊かな音楽性が描かれています。ボーイ・ジョージのファッションや存在感に見られるような多様性が、音楽面にも反映されています。
また、複合的なジャンルを親しみやすいポップスへと変換したアルバムは、バンドの音楽的嗜好を明確にしました。ロックのような衝動性や、プログレッシブ・ロックの芸術性とは異なり、大衆性と洗練を兼ね備えたポップス路線。
本作は、1980年代前半のポップ・カルチャーを象徴する作品でもあります。
シングル『Karma Chameleon』の世界的成功によって、カルチャー・クラブは瞬く間にトップスターの座を確立しました。加えて、ボーイ・ジョージの中性的なルックスや自由な自己表現は、音楽にとどまらずファッションやジェンダー観にも強い影響を与え、当時の若者文化を鮮やかに彩りました。
華やかで耳に残るメロディに、多彩なバックグラウンドを巧みに取り入れた本作は、今なお聴き継がれる名盤といえるでしょう。
Colour by Numbersのエピソード
Colour by Numbersは、1983年10月、Virgin Recordsからリリースされました。ロンドンのレッド・ブッシェ・スタジオでレコーディングが行われ、プロデュースは前作に続きスティーヴ・レヴィンが担当しています。
本作は、デビュー作『Kissing to Be Clever』(1982年)の成功を受けて制作され、より幅広いリスナー層に訴求することを意識した作品でした。ゴスペルやソウルを基調にしたアレンジ、さらにホーンやコーラスを効果的に導入することで、バンドの音楽性が大きく広がっています。
アルバムジャケットには、ボーイ・ジョージの存在感を前面に押し出したポートレートが用いられました。中性的で華やかな姿は、当時のファッション誌やメディアにも強いインパクトを与え、音楽だけでなくカルチャー全体を象徴するビジュアルイメージとなりました。
リリース後、シングル『Karma Chameleon』は全英チャートで6週連続1位を記録し、全米でも1位に輝きました。
さらに『Church of the Poison Mind』『It’s a Miracle』『Miss Me Blind』など複数のヒットシングルを生み出し、アルバムは世界的に大きな成功を収めます。全米アルバムチャートでは3週連続1位を獲得し、イギリスをはじめ各国でチャート上位にランクインしました。
結果的に、Colour by Numbersは全世界で1,000万枚以上を売り上げたとされ、1980年代前半を代表するアルバムの一つとなりました。その成功によって、カルチャー・クラブは一時代を象徴するポップ・アイコンとしての地位を確立することになったのです。
本作は、同時期に世界的旋風を巻き起こしていたマイケル・ジャクソン『Thriller』とチャートを競い合いました。1983年から84年にかけてBillboard 200では『Thriller』が長期1位を独占していましたが、Colour by Numbersもその合間に全米1位を記録し、ポップ史に名を残す名盤アルバムとなりました。
Colour by Numbersの収録曲
- Karma Chameleon(カーマは気まぐれ)
- It’s a Miracle
- Black Money
- Changing Every Day
- That’s the Way (I’m Only Trying to Help You)
- Church of the Poison Mind
- Miss Me Blind
- Mister Man
- Stormkeeper
- Victims
Colour by Numbersには、後年のリマスター盤などで11曲目以降に“余計なボーナストラック”が追加されたバージョンも存在します。洋楽では珍しくない手法ですが、当初の“作品性”を守りたいなら、この10曲構成が本来のColour by Numbersです。
アルバムとしての完成度を味わうには、オリジナル収録曲でのリスニングをおすすめします。
「カーマは気まぐれ(Karma Chameleon)」を除いては邦題の記載を割愛し、原題のみを掲載しています。レーベルが独自につけたほとんどの邦題は、一般に極めて質が悪く作品の本質を反映していないためです。
PickUp:Karma Chameleon
アルバムを象徴する代表曲であり、カルチャー・クラブ最大のヒットとなったナンバーです。1983年にシングルとしてリリースされると、全英チャートで6週連続1位、全米Billboard Hot 100でも1位を記録しました。
世界的なセールスは数百万枚に達し、80年代を代表するポップソングのひとつに数えられています。
軽快で親しみやすいメロディと、誰もが口ずさめるキャッチーなサビは、ポップソングの王道的手法。一方で歌詞は「自分に正直でない人間関係の破綻」をテーマとしており、ボーイ・ジョージ特有のアイロニーと人間観察が込められています。
華やかさと普遍的なメッセージ性を兼ね備えた楽曲。
わたしも、シングル曲として繰り返し聴き込んできましたが、楽曲の完成度とミュージックビデオで演じるボーイ・ジョージの独自のセンスには脱帽せざるを得ません。
“Didn’t hear your wicked words every day, And you used to be so sweet, I heard you say”
(毎日、そんな冷たい言葉を投げかけられることなんてなかった。あの頃の君は、もっと優しくて甘い人だった)
出典:Culture Club『Colour by Numbers』(1983, Virgin Records)
PickUp:Victims
アルバム後半を彩るバラードであり、カルチャー・クラブの表現力を証明するナンバーです。1983年にシングルとしてリリースされると、全英チャートで3位を記録し高い評価を得ました。
壮大なアレンジと叙情的な旋律が重なり合い、ボーイ・ジョージの情感豊かな歌唱が楽曲を彩ります。
歌詞は「人間関係におけるすれ違いや被害者意識」をテーマとしており、愛の裏側に潜む冷徹な現実を描き出しています。
華やかな『Karma Chameleon』と対照的に、この曲はアルバムの内省的な側面を表現しています。ポップな親しみやすさと同時に深い陰影を描くことで、アルバム全体に深みを与えました。
ストリングスとコーラスによる壮大なクライマックスのあと、静かにフェードアウトしていくエンディングは、過去の愛の余韻を感じさせます。
“We love and we never tell, What places our hearts in the wishing well, Love leads us into the stream”
(愛し合っても、口にはしない。心を願いの泉へと沈めるように。愛は僕らを流れの中へと導いていく)
出典:Culture Club『Colour by Numbers』(1983, Virgin Records)
おすすめの聴きかた
Colour by Numbersはアルバム1枚で完結している名盤です。聴くときには1曲目からラストまで「通し」で聴くことをお勧めします。歴史的名盤のほとんどは、アルバム単位で作品が完結しており、映画を観るように「通し」で聴くのが基本です。
本作はロック的な音圧や激しいサウンドで圧倒するタイプの作品ではありません。軽快で親しみやすいメロディや、ボーイ・ジョージの中性的で表情豊かな歌声、そしてソウルやゴスペルを取り入れた色彩感のあるアレンジが魅力です。
一般的なロックのように音圧や躍動感を重視したリスニング環境でなくても、十分に作品の本質を感じることができると思います。
あとがき(Colour by Numbers)
本作Colour by Numbersは、日本国内において、それほど知名度が高い作品ではありません。
ただし、リリース当時は、全世界で7,000万枚以上を売り上げたとされるマイケル・ジャクソンのモンスターアルバム『Thriller』が居座る中、アルバムとして全米2位、楽曲『Karma Chameleon』は1位を獲得したほどの傑作アルバムです。
カルチャー・クラブの方向性自体がロック的ではないため、ロック史の系譜として語られることは少ないものの、ソウル、レゲエ、ポップ、ニューウェーブが混ざり合うサウンドと、ボーイ・ジョージの音楽センスで描かれたアルバムは、ひとつの音楽作品として、洋楽ファンを十分に楽しませてくれます。
わたし自身、ロックを聴き漁っていた時代でも、違和感なく聴いていたアルバムでもあります。
80年代の華やかなポップシーンを彩ったColour by Numbers。あなたにとってもお気に入りの1枚になれば嬉しいです。